パーパス経営とは?メリット・デメリットと具体的な取り組み方を解説

2023年09月11日

はじめに

  • 企業がマンネリ化してきて社員全員のモチベーションが低い
  • 従業員からもっと信頼される会社にしたい
  • 企業のブランドイメージを向上させたい


このような悩みをお持ちの経営者も多いのではないでしょうか。社会における自社の存在意義(何のために存在するのか)を明確にし、社会貢献と利益創出の両方の実現を目的とする経営手法「パーパス経営」。パーパス経営を実践すれば、従業員のモチベーションアップや信頼獲得、さらに企業のブランドイメージの向上などにも役立つと言われています。 本記事では、会社の事業に意義を感じてこれまでよりもさらに社員にいきいきと働いてほしいと思う経営者向けに、パーパス経営の内容を詳しく紹介します。

パーパス経営とは自社の社会的な存在意義に従って経営すること

パーパス経営とは、自社の社会的な存在意義(何のために存在するのか)を明文化し、定めた存在意義に従って会社を経営することです。パーパス(Purpose)とは、もともと「目的」や「意図」を表す言葉で、ビジネス用語として存在意義や役割の意味を持つようになりました。 企業は何のために存在するのか、企業で働く従業員は何のために働いているのかを明確にすることで、従業員のモチベーションアップやエンゲージメントの向上、企業のブランドイメージ向上に貢献する経営手法です。

パーパス経営とMission・Vision・Valueはどう違う?

パーパス経営とMVV(Mission・Vision・Value)の違いは、企業の社会的な役割が盛り込まれているかどうかという点にあります。 MVV(Mission・Vision・Value)には、必ずしも企業の社会的な意義や役割を盛り込む必要はありません。しかし、パーパス経営では「企業がどのような社会貢献の役割を担うか」を盛り込む必要があります。

<パーパス経営とMVVの違い>

Purpose 社会や環境から見た自社の存在意義・役割
Mission 自社の使命や果たすべき役割(=自社のなりたい姿のみ)
Vision 自社の将来像
Value

企業の価値観や行動指針


もしも、Mission(自社の使命や果たすべき役割)に社会的な視点や環境負荷軽減などの内容が盛り込まれていれば、パーパス経営と同義と言えるでしょう。微妙な違いですが、企業の社会的な意義や役割が書かれているかどうかがポイントです。

パーパス経営が必要とされる背景

ここでは、パーパス経営が必要とされる背景について紹介します。

持続可能な経営が求められるようになった

近年、企業は持続可能な社会を実現する経営が求められるようになりました。なぜなら、大気汚染や地球温暖化などの環境問題に、人間社会が直面しているからです。 実際、持続可能な社会を目指すためにSDGsという概念が提唱されており、経済成長と地球環境の維持を両立させる動きに注目が集まっています。 経済成長と地球環境の維持を両立させるSDGsに注目が集まったことで、企業の社会的な存在意義・役割を明確にするパーパス経営が必要と言われています。

消費者がモノよりも体験を求めるようになった

消費者がモノよりも体験を求めるようになったことも、パーパス経営が必要とされる理由の1つです。戦後など、モノが不足している時代では、商品を作るだけで収益を上げられました。しかし、現代のように物質的に豊かになると、似たような商品が市場にあふれて競合他社との差別化が難しくなり、消費者に認知されません。 パーパス経営は、競合他社との差別化にも役立つと言われています。なぜなら、パーパス経営を実践して新しい顧客体験を提供できるからです。

例えば、環境負荷の少ない商品を販売することで、消費者はモノの消費と環境保全の両方に貢献できます。 他にも、売上の一部を自然環境保護への寄付を約束することで、社会貢献の一部を担っているのだと消費者に認識してもらえます。 パーパス経営を実践することで、ただ消費者としてモノを買うのではなく、その企業の商品を購入することでより社会貢献できるという新しい体験を提供できるのです。

投資家が環境負荷や社会との関わり方も評価するようになった

現代は、SDGsに対する企業の取り組み内容を評価する投資家が増えています。実際、2006年に第7代国連事務総長のコフィー・A・アナン氏によって提唱された国連責任投資原則(Principles for Responsible Investment)では、以下のような投資原則が定められています。 責任投資原則(PRI)1.png 出典|責任投資原則(PRI)

ESG、つまりEnvironment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス)の観点も投資プロセスに反映し、経済的に効率が良いだけでなく社会や自然環境に利益をもたらす国際金融機関を作ることが目的です。実際、PRIに賛同している機関投資家の数は増え続けています。

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出典|責任投資原則(PRI)

企業だけでなく、投資家も環境保全に対する関心が深まっていることが分かります。

変化の激しい時代でも通用する明確な指針が企業に求められるようになった

技術革新による非連続的な市場の変化や予測不可能な事態に対応するためにも、明確な指針が企業に求められています。なぜなら、明確な指針を出すことで従業員や株主などさまざまなステークホルダーと進むべき方向性を共有でき、意思決定やコミュニケーションがスムーズに行えるからです。

近年は、先行きが不透明なVUCAの時代と呼ばれています。VUCAとは以下の4文字を略した言葉です。

  • V(Volatility:変動性)
  • U(Uncertainty:不確実性)
  • C(Complexity:複雑性)
  • A(Ambiguity:曖昧性)

いつどのような変化が起こるのか読めない時代において、人々がバラバラに行動すると、組織は崩れて機能しなくなります。しかし、パーパス経営を実践して自分たちの目指す社会との関わり方や存在意義を明確にしていれば、明確な指針に共感する人たちとベクトルを合わせて行動できるでしょう。

また、企業に関係する人たちが同じ価値観・判断基準に従って行動するため、意思決定もスムーズになります。企業は、株主や経営者、従業員などのさまざまな人たちの協力で成り立っている組織です。パーパス経営は、先行き不透明な時代でも関係者のベクトルを合わせて協力する体制作りに貢献すると言われています。

ミレニアル世代やZ世代が社会的価値を求めている

ミレニアル世代(1980〜1990年代半ばに生まれた人たち)やZ世代(1990年代後半から2010年前後に生まれた人たち)が社会的価値のある仕事を求めていることも、パーパス経営が必要とされる理由です。

ミレニアル世代もZ世代も、バブル崩壊やリーマンショックなどの経済的な不況やアメリカ同時多発テロなどの社会的問題を経験している世代のため、社会貢献に興味を抱く傾向にあります。

今後は、ミレニアル世代やZ世代の人たちが企業活動や消費行動の中心人物になるため、行動に社会的意義をもたらす企業がますます注目されるでしょう。

パーパス経営を実践するメリット

続いて、パーパス経営を実践するメリットについて紹介します。

  • 従業員のエンゲージメントが上がる
  • 投資家から信頼される
  • 意思決定が迅速になる
  • 企業発展につながる

それぞれ詳しく解説します。

従業員のエンゲージメントが上がる

パーパス経営を実践すると、従業員のエンゲージメント(従業員の会社に対する思い入れ)が上がります。なぜなら、従業員が普段から取り組んでいる仕事に意義や目的、価値を感じるようになるからです。

パーパス経営を実践すれば、社会の中での自社の立ち位置や役割、存在意義が明確になるため、従業員が取り組む仕事内容にも意味が生まれます。結果として、従業員の行動が社会貢献につながっているという自覚が生まれ、やりがいを感じるようになるのです。

エンゲージメントが向上すれば、従業員がより会社や会社の事業に愛着を持ってくれるようになり、業績の向上や離職率の低下が期待できます。

投資家から信頼される

パーパス経営に取り組めば、投資家から信頼されるようになるでしょう。なぜなら、一貫性のある経営ができるようになり、投資家から共感してもらいやすくなるからです。

先程説明した通り、投資家もESG(Environment(環境)・Social(社会)・Governance(ガバナンス))を評価基準に入れながら投資すべきか判断しています。パーパス経営を実践して社会的に意義のあるビジネスを展開することを約束し、マネジメントにも反映して一貫性を保てれば、現代の投資家から信頼されるでしょう。

意思決定が迅速になる

意思決定が迅速になるのも、パーパス経営のメリットです。なぜなら、パーパス経営を実践することにより、組織内の価値観や判断基準、達成したい目標がそろうからです。

会社の存在意義や社会における役割が明確になることで、従業員が会社の事業の目的を理解しやすくなります。結果として、会社や事業に対する共感が生まれるだけでなく、全員の判断基準が明確になるため、意思決定が迅速になるのです。

企業発展につながる

パーパス経営は、企業発展につなげることも可能です。なぜなら、企業の社会における立ち位置や役割を明確にすることで、新たなビジネスチャンスを生み出せるからです。

消費者を消費者として捉えるのではなく、社会問題を解決する一員と捉えなおしてみましょう。消費者という言葉だけでは、一方的にサービスを享受する受動的な印象を与えてしまいます。しかし、社会問題を解決する一員と捉えれば、能動的に社会貢献に参画する姿に変化するため、別のニーズを引き出せるのです。

環境負荷軽減や動物保護など、購入すると社会問題を解決するマーケティングを展開して消費者の社会の役に立ちたい気持ちを後押しできれば、新たな市場を開拓して企業を発展させられるでしょう。

パーパス経営のデメリット

ここでは、パーパス経営のデメリットについて紹介します。どのような経営手法も完璧なものではなく、注意すべき点は必ずあるので以下のデメリットを押さえて失敗を避けましょう。

社員の行動が伴わない可能性がある

企業の社会的な役割や存在意義を定めても、形だけで社員の行動が伴わない可能性があります。どれだけ素晴らしいパーパスを定めても、実行されなければ絵に描いた餅です。パーパスの実現に向けて取り組めていない場合、投資家や従業員、顧客からの信頼を失うリスクもあります。

従業員の行動が伴わないことで生じるリスクを回避するために、パーパスを現実的かつ社員の共感を得られる内容にしましょう。従業員が内容を理解できるようにパーパスを設定することで、行動しやすくなります。

効果が出るまでに時間がかかる

パーパス経営を実践しても、効果が出るまでに時間がかかるので気をつけましょう。なぜなら、パーパスの浸透に時間がかかるからです。

社員教育や株主への説明など、パーパスを浸透させるために取り組まなければならないことはたくさんあります。時には、経営陣が定めたパーパスに反対する意見も出てくるでしょう。

しかし、従業員をはじめとした関係者とベクトルをそろえて企業をより良い方向へ発展させるには、パーパスを浸透させることが必要です。そのため、パーパス経営を実現するためにはある程度の時間がかかることを覚えておきましょう。

パーパス経営を実現する4つの手順

ここからは、パーパス経営を実現する手順を紹介します。具体的には、以下の4つのステップです。

  1. 自社とステークホルダーの関係を棚卸しする
  2. 企業のパーパスを明文化して社内に浸透させる
  3. 経営戦略や事業戦略に組み込む
  4. 社員の日々の業務に落とし込む

それぞれ詳しく解説します。

1.自社とステークホルダーの関係を棚卸しする

まず必要なのは、自社とステークホルダー(自社に関わる全ての人)の関係を棚卸しすることです。顧客や投資家、従業員、仕入先に関するあらゆる情報を集めて整理します。具体的には、以下の情報をベースにすると良いでしょう。

  • 自社のCSRに関する調査
  • IRに関する外部評価
  • 仕入先の調査データ
  • 従業員のデータ
  • 顧客のデータ
  • その他外部環境に関する調査

アンケートやヒアリング、オブザベーション(行動観察調査)などの調査方法を軸に、自社に合った手法を使ってステークホルダーの情報を集めます。

ステークホルダーに関する調査後は、自社を分析しましょう。具体的には以下の項目で分析し、自社の核となる能力や社会に提供している価値を洗い出します。

コンピテンシー分析

企業が持つ本質的な能力を分析する方法です。自社が社会に対してどのような価値を提供しているのかを見える化します。

3C分析

Customer(市場&顧客)、Competitor(競合)、Company(自社)の頭文字を取ったフレームワークです。主にマーケティングの環境分析に役立ちます。

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出典|株式会社シナプス「3C分析のやり方-マーケティング環境分析

Customer(市場&顧客)の観点で、市場規模や市場の成長性、顧客のニーズや行動に関する情報を集めます。また、Competitor(競合)の観点では、業界全体のシェアの割合や伸びている競合他社とその特長を分析すると良いでしょう。Company(自社)の観点では、経営理念やビジョン、自社の強みや弱みをまとめておきます。

SWOT分析

自社の事業を以下の4つの項目に分けて現状を分析する手法です。主に経営戦略を策定するために使われます。

  • Strengths(強み)
  • Weaknesses(弱み)
  • Opportunities(機会)
  • Threats(脅威)

自社を取り巻く環境(競合他社や法改正など)や新たなビジネスチャンスなどの複数の要素を客観的に分析し、今後の経営戦略や方向性を明確にしましょう。

ケイパビリティ分析

事前に行ったSWOT分析を基に、ケイパビリティ分析も行いましょう。ケイパビリティとは、事業全体のプロセスで発揮される組織的な総合力のことです。コンピテンシー分析で得た中核的な一部の強みとは異なり、組織の力を結集させた戦略実行力を意味します。

アップル社を例に考えてみましょう。アップル社は無駄がなく洗練されたデザインの製品を生み出す力がコアコンピテンスであり、世界中のアップルストアでも洗練された印象を持たせる接客や企業文化がケイパビリティに該当します。

製品が生み出されてから、エンドユーザーの手に届くまでのプロセス全体で総合力を発揮することにより生み出している価値を分析するのがケイパビリティ分析です。

2.企業のパーパスを明文化して社内に浸透させる

ステークホルダーと自社の分析が完了したら、パーパスを明文化して社内に浸透させましょう。パーパスを明文化するだけでは不十分です。従業員にパーパスを設定した背景まで含めて説明し、共感を得られるようにしましょう。

「社会における何を問題と捉えているのか」、「問題の根本的な原因は何なのか」を最初の段階で深掘りしておくと、より自社がどのような社会貢献をしたいのかが明確になります。

パーパスを設定するに至った背景までを丁寧に伝えることで、従業員の理解を得やすくなり、具体的な経営戦略や事業戦略にも落とし込みやすくなるでしょう。

3.経営戦略や事業戦略に組み込む

パーパスを設定したら、経営戦略や事業戦略に組み込みましょう。経営計画や中長期のビジネスプランにパーパスの考え方が反映されたビジョンや数値目標を設定し、ビジネスとして形にしていきます。

また、事業戦略に基づいて、組織運営についても同時に検討すると良いでしょう。マネジメントの方針にもパーパスを組み込むことで、事業戦略と実際に取り組む組織(役割分担)の整合性が取りやすくなります。

パーパスが企業活動のあらゆる場面に価値観・判断基準、行動様式として登場するよう、仕組みから整えましょう。

4.社員の日々の業務に落とし込む

従業員が普段からパーパスを意識して行動できるように、日々の業務に落とし込みましょう。従業員にパーパスを意識してもらうためには、ただ情報を発信するだけでは不十分です。

従業員が日々パーパスに触れる機会や考える時間を生み出さなければなりません。例えば、教育研修や朝礼の時間を活用してパーパスに触れるなどの施策が挙げられます。

パーパスの浸透は、一朝一夕では実現しないので継続的に施策を実行して会社全体のベクトルを合わせましょう。

まとめ

パーパス経営とは、自社の社会的な存在意義(何のために存在するのか)を明文化し、定めた存在意義に従って会社を経営することです。パーパス経営を実践して従業員や投資家などのステークホルダーとベクトルを合わせられれば、意思決定が迅速になり、新しいビジネスチャンスを見つけられる可能性もあります。

しかし、企業のパーパスを設定する時間がなく、従業員のモチベーションや会社全体の生産性が低いと悩む方もいるかと思います。従業員のモチベーションアップや企業としてベクトルを合わせ、一体感のある組織づくりをしたい方は、KCCSのコンサルティングサービスにお問い合わせください。

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