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京セラ株式会社IoTクラウド

大規模なIoTシステムをリプレイス
利便性を格段に向上しつつ運用保守費は半減

(右から)
京セラ ソーラーエネルギー事業本部 マーケティング事業部 マーケティング部 副責任者 石田 仁 氏
同事業部 商品企画係 田簑 裕美子 氏
同事業部 商品企画係責任者 金内 啓晃 氏
KCCS ICT事業本部 プラットフォーム事業部 サービスサポート課責任者 岸菜 雄佑
同事業部 クラウドソリューション課 クラウドソリューション係責任者 山本 和幸

京セラ株式会社

設立:1959年4月
本社住所:京都府京都市伏見区竹田鳥羽殿町6番地
事業概要:ファインセラミック材料、半導体部品、電子部品、太陽光発電システム、医療用材料、通信機器などの開発・製造・販売、および関連するサービスを提供

KYOCERA

「クリーンエネルギーの普及を通じて世のため、人のために貢献する」という考えのもと、京セラで太陽光発電システム、並びにリチウムイオン蓄電システムなどの開発と供給を手がけているのがソーラーエネルギー事業本部である。同事業本部が、将来のビジネス拡大を見据えて、新たなシステムを導入した。一般家庭や企業に設置したEMS(Energy Management System)機器から情報を収集するIoT(Internet of Things)システム「Energy Cloud Platform(ECP)」だ。このシステムを提案・構築したのが、京セラコミュニケーションシステム(KCCS)である。

背景・課題|既存のIoTシステムの運用保守が大きな負担に

京セラは1984年からクリーンエネルギー事業に乗り出し、太陽光発電システムを提供してきた。現在、同社でクリーンエネルギーを含めた総合的なエネルギー事業を展開しているのがソーラーエネルギー事業本部(以下、SE事業本部)である。家庭に設置したHEMS(Home Energy Management System)機器から収集した情報を基に、インターネットを通して電力の利用状況を「見える化」するサービスも行っている。同社のSE事業本部 マーケティング事業部 マーケティング部 副責任者の石田 仁氏は、同社のクリーンエネルギー事業を次のように説明する。

「ソーラー(太陽光)だけでは事業領域やお客様に提供する価値も限定されてしまいます。蓄電池や燃料電池などさまざまな機器を組み合わせた新しいエネルギーサービスを創出して、社会に貢献していきたいと考えています」。
こうした方針に基づいて、SE事業本部は技術の進展や市場のニーズに合わせて2013年にはHEMS関連のサービスを開発し、順次拡大していった。しかし、その一方でサービスの拡大に伴い課題が浮上してきた。拡大する過程でシステムが複数になり構成も複雑化したのだ。提供するサービスに応じてシステムを使い分けていたため、運用負荷も運用保守費も大きな負担となっていた。システムの主要な機能は電力状況の可視化のみだったが、結果として膨大な運用保守費を投じなければならなかった。
さらに、SE事業本部は今後のサービス拡大に向けて、機動的に新機能を追加できるような基盤が必要だと考えていた。同時に法改正によって太陽光発電設備への出力制御機能の搭載が義務づけられたため、既存のHEMS機器をインテリジェント化して電力会社の要請に応じた制御を実施する必要があった。
こうした背景から、SE事業本部は2016年から複数のシステムを単一のシステムへ統合するとともに、将来の機能拡張を見据えたリプレイスの課題に取り組んだ。

京セラ株式会社 ソーラーエネルギー事業本部
マーケティング事業部 マーケティング部 副責任者
石田 仁 氏

選定ポイント|IoTシステム構築の実績とAIに関する知見が決め手に

SE事業本部では、システム構築業者としてKCCSを選定。SE事業本部 マーケティング事業部 商品企画係責任者の金内 啓晃氏は「IoTシステムの構築・運用において、KCCSに大きな実績があることを聞いていたので安心して任せられると思いました。これまでの経験でフットワークが軽いことも、KCCSを選定した要因の一つです」と語る。HEMS機器のインテリジェント化対応にはAI(人工知能)の機能が必要だと思い、KCCSがAIに関する知見と実績を豊富に備えていたことも選定を後押しした。
SE事業本部の新システム構築にあたり、KCCSは将来の事業拡大を見据えてクラウドに全面移行するという提案を行った。この提案はKCCSの「IoTクラウド」というソリューションをベースとしたシステムだ。クラウドであれば、システムの性能を向上させる、あるいは新たなサービスを追加するといったことがオンプレミスよりもスピーディーで、さらにBCP(事業継続計画)における優位性があったことも、クラウドを提案した理由の一つだ。

京セラ株式会社 ソーラーエネルギー事業本部
マーケティング事業部 商品企画係責任者
金内 啓晃 氏

KCCSのICT事業本部 プラットフォーム事業部 サービスサポート課責任者の岸菜 雄佑は「拡張性に優れたシステムを構築し、将来的には新しいビジネスや新規サービスを展開する際の事業基盤となるようなプラットフォームになることを意識し提案しました」と語る。
提案のベースとなった「IoTクラウド」は、企画設計からクラウドシステムの構築、およびIoT機器の施工・運用・保守までを、KCCSがワンストップで提供するサービスだ。過去に、全国にチェーン展開されている小売業向けに数千台規模のデバイスに対応したシステムを構築した実績もある。これまでの導入・運用実績で培い開発したコンポーネント群があり、これらを組み合わせることで短期間かつ安価にサービスを立ち上げられることが大きな特長だ。細かい機能追加や変更などに柔軟に対応できるマイクロ・サービス・アーキテクチャーを採用している。
なお、ECPの基盤には自社で豊富な実績を持つクラウドサービス「Google Cloud Platform(GCP)」を選定した。

ICT事業本部 プラットフォーム事業部
サービスサポート課責任者
岸菜 雄佑

※「Energy Cloud Platform(ECP)」のイメージ

導入効果・展望|可用性や機能性を向上しながら運用保守費は半分に

複数のシステムを統合したことによって、運用保守の負担が軽減できたことはもちろんのこと、可用性や利便性も向上した。運用保守費は従来の約半分と大きく削減できた。
可用性の面では24時間365日の稼働が可能になった。従来システムはメンテナンスのために定期的に停止していたが、マイクロ・サービス・アーキテクチャーを採用している新システムでは24時間365日の連続運転が可能だ。SE事業本部 マーケティング事業部 商品企画係の田簑 裕美子氏は「現在、さまざまな実証を行っており、システム停止が極力少ないことが、システム選定の重要な条件の一つとなっていました」と語る。

京セラ株式会社 ソーラーエネルギー事業本部
マーケティング事業部 商品企画係
田簑 裕美子 氏

また、従来のシステムにはなかった新機能を追加したことで、SE事業本部、施工業者、顧客それぞれの利便性が格段に向上している。SE事業本部と施工業者の利便性を向上させたのが、新たに追加した管理機能だ。新システムでは顧客が家庭で閲覧する画面と、施工業者向けの画面のどちらの画面にも、顧客IDを指定するだけで容易に遷移できるようになった。田簑氏は「お客様をサポートする際、従来はSE事業本部側でお客様の画面が見られないため、対応に多くの時間を要していましたが、新システムではお客様に承認いただければ、お客様の画面を共有で見ながらサポートができるので、業務効率が劇的に向上しました。ユーザインターフェイスも改善され、とても見やすく操作しやすい画面になりました」と評する。施工業者向けにもスマホに最適化された管理画面を新たに用意した。施工業者はHEMS機器の設置作業を現場で行わなければならないが、最適化された管理画面によって作業に必要な情報が瞬時に閲覧できるようになったのだ。

さらに利便性を向上させたのが、新たに追加されたHEMS機器のファームウェアを更新する機能だ。この機能の恩恵を象徴しているのが、京セラが2017年1月に発売したHEMS製品「NAVIfitz(ナビフィッツ)」である。京セラは発売から約半年後に、この新機能を用いてAIを活用した「おまかせ運転モード」を顧客の負担なく自動で追加した。
また、新たに追加したデータダウンロード機能も、運用作業の軽減につながっている。顧客が補助金を受領する条件として計測データを補助金交付元に送付する必要があった。従来はそのデータのダウンロードを京セラに依頼しなければならなかったが、現在は顧客自らがデータをダウンロードできるようになった。

リプレイスされた新システムはIoTシステムの先駆的な存在だ。多くの企業がIoTシステムの構築に挑んでいるが、多くはPoC(概念実証)の段階にとどまっており、実稼働しているものはそれほど多くはないのが現実である。ましてや、SE事業本部のシステムのように数万台規模のデバイスをサポートしているものは極めて少ない。

今回のシステム構築を振り返り、KCCSで数々のIoTシステムを導入した経験のあるICT事業本部 プラットフォーム事業部 クラウドソリューション課 クラウドソリューション係責任者の山本 和幸は「PoCでうまくいっても、実稼働となると一気に導入のハードルが高くなるケースが少なくありません。一般的にICTベンダのIoTビジネスは、データを収集・分析するシステムの構築にとどまり、施工など他のエンジニアリング部分は別の事業者が担当するケースが多いようです。これに対してKCCSは、IoTシステムにおけるシステムとエンジニアリングの全てを提供しているからこそ、SE事業本部様のご要望を実現できたと思っています」と語る。IoTシステムの構築において企画設計・構築・施工・運用・保守まで、一貫してサービスを提供できる体制がKCCSの大きな強みだ。

ICT事業本部 プラットフォーム事業部
クラウドソリューション課 クラウドソリューション係責任者
山本 和幸

石田氏は、KCCSとの今後の協業に大きく期待しているとして、次のように語る。
「私たちよりもKCCSの方がICTに関する知見が豊富です。両社が協業することで、テクノロジーを起点とした新しいアイデアで革新的なサービスを創出していきたいと考えています」。

取材時期:2018年11月
掲載日:2019年1月25日

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