アメーバ経営を支える人事制度構築・運用のポイント

2015年09月10日

「心」をベースにしたアメーバ経営を正しく機能させ、着実に成果に結び付ける風土を醸成する人事制度の在り方

「会社経営とは一部の経営トップのみで行うのではなく、全社員が関わりを持って行うものだ」との考えに基づき、京セラ創業者 稲盛和夫名誉会長によって考案されたアメーバ経営。
アメーバ経営の最大の特徴は、会社組織を「アメーバ」と呼ばれる小集団に分け、アメーバのリーダーがまるで経営者のように小集団組織の経営を行うことである。アメーバのリーダーには現場の主任や係長クラスの人材が任命され、各アメーバの経営を任される。また、アメーバ経営は経営環境の変化に合わせて柔軟に組織を変更して、最適な体制で経営を行えるという特徴もある。
そうした若手人材をリーダーとして登用し育成していくことや、柔軟な組織変更に対応しビジネスを展開していくアメーバ経営であるが、アメーバ経営の特徴に合わせた人事制度を構築することで、アメーバ経営の強みはさらに発揮される。京セラコミュニケーションシステム株式会社(KCCS)では、アメーバ経営の運用を支える人事制度の構築を支援する人事コンサルティングを提供し、既に150社を超える企業が導入している。
KCCSの提供するコンサルティングサービスが、どのような考え方に基づき人事制度を構築しているのか、どのようにしてアメーバ経営の運用を支えているのか、人事管理コンサルティング部長・清水宏治氏が語る。

清水 宏治(Koji Shimizu)

人事管理コンサルティング部長

1990年京セラ入社、2016年京セラコミュニケーションシステムへ転籍。
100社以上のアメーバ経営コンサルティング、30社以上の人事制度構築に携わる。製造業、卸・小売業、建設業、サービス業など、さまざまな業界へのコンサルティング経験を持ち、導入企業の年度計画の立案、業績向上、リーダー育成、経営効率向上、組織力向上、一体感の醸成などを支援。

アメーバ経営によって起きる変化 ―アメーバ経営と人事制度の関係―

アメーバ経営は京セラ創業者 稲盛和夫名誉会長により考案され京セラ発展の原動力となりました。現在では、700社を超える様々な業種、業態の企業様に導入され経営改革を果たされています。アメーバ経営を導入されることにより、次の5つの変化が表れると考えています。

  • 全員参加の経営
  • 採算で貢献度を図り、目標意識を持たせる
  • 良く見える経営の実現
  • トップダウンとボトムアップの調和
  • リーダーの育成

アメーバ経営は全員参加で経営を伸ばし、経営理念を実現していこうという取り組みです。小さな組織単位で採算が見えます。部門のメンバーにしてみれば、自分自身の貢献度がよく見えるわけです。それにより、「もっと頑張ろう!」という取り組みが社内のあちらこちらで出てきます。トップからも、どの部門が頑張っているのか、また、どの部門が今一つ調子が出ていないのかといったことが良く見えます。

また、全社共通の「時間当り採算」を指標としていることから、意思疎通もスムーズになり、上位者からの指示事項が的確に伝わります。さらに、現場から「次はこうしていきたい」、「このような取り組みを充実させたい」といった提案も上申しやすい環境となります。

各アメーバには責任者がおり、若くてもアメーバリーダーに登用され、手腕を発揮する人材も出てきます。若いうちから小さな部門を任せ経験を積ませることで、さらに大きな部門を任せることができるリーダーが育つのです。

このように、アメーバ経営を導入しますと組織が活性化され、成果も得られるのですが、人事制度がアメーバ経営の運用を支えるものになっていない場合には、さまざまな問題が発生し、結果的にマンネリ化が始まってしまうケースも考えられます。

人事制度が組織の活性化を妨げるパターン

例えば、組織の硬直化です。多くの企業で「役職手当」が採用されていると思います。役職手当は「課長になった」「部長に昇進した」という時には、大いに本人をモチベートする効果があると考えます。しかし降格となってしまう場合にはディモチベート、つまり意欲を下げてしまうことが考えられ、柔軟な人事異動を妨げる要因になってしまいます。

組織とは、経営環境の変化に合わせて柔軟に変化していくべきです。環境が悪化すれば、組織の統廃合などドラスティックな変革を迅速に行う必要があります。しかし、それが役職を外れる管理者への配慮からなかなかできない、となる可能性があります。これが結果として組織の硬直化を招いてしまっているケースが見られます。

2つ目は、人事評価の合理性や効率性を重視するあまり、上司が部下を指導しようとする動機づけが十分に働かないケースです。アメーバ経営を導入すると、部門の採算向上やMPの達成に対して協力的な人とそうでもない人がはっきり見えてきます。上司は、協力的でない人に対して何度か指導はするでしょうが、思うようには改善されず、現状に不満を抱きながらも、諦めてしまうということがあるかと思います。

こうした状況は、実は人事制度の運用が生み出している可能性があります。人事評価を合理的、効率的なものにしようとして、考課表に評点を書き込めば自動的に集計され、その人の評価が決まってしまうといった制度になっている場合に起きがちです。本来、人事評価は育成を目的に行われるべきであり、人材育成に必要な部下との会話や、リーダーが議論を行う場を持つことが大切なのです。

このようなケースに対してアメーバ経営の人事制度では、「人事評価調整会議」を設けております。人事評価調整会議は、他部門の部下であっても多くの幹部がその者の評価に参加し、評価の調整を行う場です。

この調整会議では直属の上司が部下の評価結果を報告します。上司に協力的でない部下の評価は当然低くなりますが、ABCDEの5段階評価でD評価が続くと、周囲からその上司に対して、その人をどのように育てていくのかと厳しく追及を受けます。「B、Cの評価結果となるように部下を育てるのが上司の責任であり、それを改善できない、あるいは放置しているのは、上司のリーダーシップに問題があるのではないか」と、非常に厳しく問われるのです。

3つ目は、部門業績に応じて、賞与原資の配分を変えることで、社員のやる気を削ぐケースです。部門別採算によって全社の業績向上に貢献した部門とそうでない部門がはっきりすると、部門毎に賞与原資の配分を変えて支給しようとされるケースが多く見受けられます。これは、一見合理的に感じられますが、実は弊害が多くあります。

赤字の業績であったとしても、そこで働いているメンバー全員がサボっていたかと言えば、決してそうではないわけです。また、業績は悪くとも、それは会社が必要としている事業であり、それを担っているわけです。そのような環境下で、「業績が悪いから、賞与の配分が少ない」ということになれば「やってられるか!」となってしまう、あるいは自分の不運を嘆く、といった心理状態になってしまうのではないでしょうか。

そうした状況に対してもアメーバ経営では、社員の昇給あるいは賞与の配分については、全社一本でその原資を管理し、個人の資格と評価によって差をつけるという配分方法をとっています。ですから、業績は決して良くない部門であったとしても、昨年と比較して大きく改善しているといった成果を残したのであれば、その部門長の貢献を正しく評価し、賞与が支給されるわけです。この点についても、組織変更や責任者の登用を柔軟に行う上で重要な特徴ではないかと考えます。

  • 部署・役職などは掲載当時のものであり、現在のものとは異なる場合があります

「全員参加経営の風土づくり」を実現する京セラの人事制度

アメーバ経営の人事制度の特徴

アメーバ経営の運営を支える人事制度とする上でのポイントを改めて整理します。

  • 組織変更やリーダーの交替への対応がダイナミックでフレキシブル
  • 評価の中心は「フィロソフィの実践」と「仕事の取り組み姿勢や業績への貢献」
  • 評価をより公正・公平に行うと共に、考課者自身を育成する場として人事評価調整会議を実施する

人事制度を設計する上で忘れてはならないのは、経営理念の実現に向けた「良き企業風土」の醸成のために人事制度を活用するということです。制度設計上、この点を重視することがポイントです。実際に、京セラが1989年に人事制度を刷新した際に、どのような風土を目指したのかを紹介させていただきます。以下は、社員に向けて発信されたメッセージの抜粋です。

京セラが30年という年月の間に素晴らしい発展を遂げることができたのは、常に熱意のある者に活躍の場が与えられ、一生懸命努力したことは必ず仕事の成果となって返ってくるという京セラのすばらしい「心」をベースにした企業風土ともいえるものがあったからです。この財産を目に見える形にして人事のシステムのなかにもり込み、それを企業のなかに根付かせていくことが必要であると判断し、人事制度の構築のなかで、いままで目に見えぬ形であった人を生かす風土を徐々に形のあるものに表現しました。

全員参加の風土を育てる仕組みと運用(人事評価の視点)

「全員参加の風土を育てる仕組みと運用」について、特徴的な制度と運用をいくつかご紹介いたします。

まず一つ目は、「人事評価の視点」です。人事評価の視点は「業績・行動・役割責任」の3つです。この全ての観点に「考え方」に関する要素を盛り込み評価基準を設定している点がポイントです。

京セラのグループ企業である京セラコミュニケーションシステム株式会社では、「行動評価」のことを「フィロソフィ評価」と呼んでいます。京セラにおいては、「考え方」とは京セラフィロソフィのことであり、「京セラフィロソフィを実践する人材」を高く評価することが、全従業員に浸透しています。

「フィロソフィ評価」で高く評価してもらえるように努力する、これは、京セラフィロソフィを実践し、求められる人物像に近づいていくために努力をしている、と言い換えることができます。そこに向かって個々人が自らも努力し、周囲はそれを支援・育成するという行動が発揮されるわけです。

また、アメーバ経営のもとでは、リーダーには、採算管理や部下育成などのマネジメント能力が求められます。ここでいうマネジメント能力は、成果につながる職務行動とも捉えられます。従って、フィロソフィ評価は、いわゆる「コンピテンシー評価」とも言えますし、企業が大切にする価値観に基づく評価と捉えると「バリュー評価」の要素も盛り込まれているということだと考えます。

「業績評価」においては、「人事管理システム」と両輪をなす「経営管理システム」の適切な運用を前提とし、賃金原資は全社一律とした上で、「時間当り採算」を評価に直結させない運用としています。賃金を直結させようとすると、先にご説明した通り、「賞与原資は部門別に設定すべきだ」との意見が出てくる恐れがあります。また、部門業績はリーダーの力量であり、成果を出せる人材しか会社には必要ない、といった極端な振る舞いを助長する危険もあります。

ただし、時間当り採算を評価に直結させることが全くよくない、ということではありません。京セラの経営理念、つまり「全従業員の物心両面の実現を、全員参加で成し遂げよう」ということであれば採用すべきではない、ということです。

原資を公平・公正に分配することで、業績向上の報酬は「名誉と仲間からの賞賛」であり、「良い時も悪い時も、会社の皆が支えてくれたから今がある」といった考え方が定着するようになります。そして、その風土・文化を継承すべく人事制度が構築され、その風土の下、部下を正しく育成することにつながっているのです。

全員参加の風土を育てる仕組みと運用(評価を決定するプロセス)

評価を決定するプロセスでは、先にご説明した「人事評価調整会議」が必ず設けられます。この運用により、特定の上位者の意向で評価が確定することを避け、複数の目による評価を通して評価の客観性・公平性を担保すると共に、評価者の考え方、責任者としての考え方についての教育指導が行われる場となっています。

  • 1次評価は、若くとも直属の上司が行う
  • 2次評価では、その上位リーダーが主催する調整会議で甘辛を調整
  • 最終は、役員調整会議が開催され、評価結果の確認が行われる

この調整会議で重要視しているのは、評語は必ず「正規分布」を取ることを基本としている点です。これは、原資管理の観点でも重要なことですし、また正規分布をとる過程の議論で、最終的に考課項目のみならず、総合的に評価すること、また、D評価、E評価になってしまう部下の育成ポイントを、しっかり議論し共有することに繋がっていると考えます。ここが、単に順位付けをするのではなく、正規分布させることを必須とする中で生まれている効果だと考えます。

全員参加の風土を育てる仕組みと運用(個人目標管理制度の運用)

最後は、個人目標管理制度についてです。京セラコミュニケーションシステムでは、「有言実行シート」という名称の目標管理の仕組みを活用し、一人一人のメンバーに至るまでの「目標の連鎖」と、メンバーの人材育成につなげています。

有言実行シートの運用は、採算表と人事制度を融合する仕組みと言えます。しかし、何を実現するために部門の目標を設定しているのか、また、その達成のために、部下に何を期待するのか、「リーダー」は、この点を明確にもち、情熱を燃やしていなければ、目標管理制度は形骸化してしまいますので注意が必要です。

ここまで、アメーバ経営を支える人事制度の特徴についてご紹介して参りましたが、私は、アメーバ経営を真に機能させる上で、経営管理システムと人事管理システムの構築は必須の要件ではないかと考えます。

人事制度運用の責任は人事・労務部門が持つ

最後に、人事制度運営上のポイントについて触れさせていただきます。アメーバ経営を支える人事制度を構築していく上での課題を整理し、解決に向けて取り組むのは、やはり人事・労務部門です。以下は、人事部門の在り方をまとめた「人事・労務部門に期待すること」と題する指針です。「社員の幸せを守るために」を前提に、4点が示されています。

  • 1「後ろ」を見た仕事をすること

    京セラのような早いスピードで展開する会社では、大半の人が「前」を見て仕事をしており、「後ろ」を見る人がいない。京セラに入った人達が幸せに生活できるように見ていくことが人事・労務の仕事

  • 2一般社員の変化を見ること

    一人一人の苦労や悲しみを見いだし、助けて、元気を出させる。若いときに元気であったのに、歳をとるとともに活力を失い、漫然と仕事をしているような人に、持ち場・立場で活力を与えることが大切である

  • 3仕事に一生懸命に取り組むことが、人生の喜びであることを伝え、教えること

    京セラフィロソフィとアメーバ経営が京セラ発展の両輪。「心をベースにした経営」を目指す上で、人事・労務の役割は大変重要である。ただし、何とはなしに指揮・命令をしても解決はしない。社員から相談に来てくれるような存在となり、且つ、的確にアドバイスできる人材になってもらいたい

  • 4社員の心理を見るためのノウハウを持つこと

    例えば、「タイムカードの打刻状況をみる必要がある」、さらに社員の就業状況の変化を見れば、「その人の心の変化の状況が見える」というところまでいけば、人事・労務として素晴らしいセンスをもった人と言える

この内容からも、アメーバ経営を正しく機能させ、全員参加で着実に成果に結び付ける風土を醸成していくためには、経営管理部門のみならず、人事・労務部門においても、アメーバ経営が正しく機能する上での課題を把握し、主体的に対処していかれることが大切だと考えます。

アメーバ経営を将来にわたってしっかり機能させ、良き風土を作り上げると共に、しっかりと業績向上に結び付けるためにも、人事制度を始めとした周辺の制度が、きちんとアメーバ経営を支えるものとなっているかが大切です。そのための課題を的確に捉え、主体的に解決に向けて取り組む、その役割・責任が人事・労務部門にあると考えています。

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