[ITR×Infor×KCCS]プロジェクトの経験から考えるERP導入を成功させるポイント

2015年10月07日

ERPの導入は1年から場合によっては数年を要するビッグプロジェクトだ。そのため導入企業側の体制や参画割合、ベンダ選定、ERPの知識習得、目標達成度合いの評価など、注意すべきポイントも多岐にわたる。では、ERP導入を成功させるためにはどのようなことに気をつけるべきなのだろうか。企業経営やマーケティングのコンサルを手がける株式会社アイ・ティ・アールの浅利 浩一氏、ERPのパッケージベンダであるインフォアジャパン株式会社の石川 光幸氏、ERPの導入コンサル・システム構築・運用までトータルで支援する京セラコミュニケーションシステム株式会社の谷口 直樹に話を聞いた。

ベンダに頼り過ぎず、企業側が主体的に参画

(谷口)企業はERPの導入を検討する際に、自分たちにかかる負担が少ないベンダの提案を選ぶ傾向があります。そういう形でプロジェクトを開始させるとベンダ任せになり上手くいかないケースもよくありますね。そうならないためには、導入企業側が主体的にプロジェクトに参画することが重要で、特にプロジェクトマネージャだけではなく現場を巻き込んでいくような体制を確保してからスタートすることが大事だと思います。

ソリューション事業本部 副本部長 谷口 直樹

(浅利氏)そうですね、プロジェクトマネージャだけでなく部門別リーダーが積極的に参画していないと迷走する、というのはよくある話ですね。ERPパッケージは初めて導入するという企業が多いので、パッケージの機能が自社業務に合っていなくて、カスタマイズが必要になるなど、最初の想定とはまったく異なってしまうこともあります。ですから、そうした状況でもプロジェクトが進むよう、現場レベルでもできるだけ早くパッケージの知識を習得して、プロジェクトの支持者になってもらうことがポイントではないかと思います。

株式会社アイ・ティ・アール リサーチ統括ディレクター / プリンシパル・アナリティスト 浅利 浩一氏

(谷口)もう1つ、プロジェクトオーナーの参画割合も重要ですよね。ERP導入にはパッケージに自分たちの業務を合わせていくケースもあるので、業務の標準化など変えないといけないことが出てきます。そういった場合には、全社的な判断ができる人の関与が大変重要だと思います。

プロジェクト体制例

プロジェクト体制例

目的・ゴールを明確にし、対等な関係で臨むベンダを選択

(谷口)実際にプロジェクトが始まると、ERPパッケージを選んだのにオーダーメイドの仕組みを作るように切り替わってしまうことがあります。そうならないためには、現場からの要望とERPを導入して実現したいことにズレがないか、目的とゴールを明確にし、プロジェクトリーダーからメンバーまでが共通認識を持つことが必要だと思います。

(浅利氏)そうですね、よく全体最適という言葉が使われますが、全体最適というと、あれもこれもと内容が曖昧になってしまうので、目的に合わせて優先順位をしっかり付け、必要に応じて取捨選択することが重要だと思います。
プロジェクト方針が明確になったら次はベンダ選定ですね。私の場合は、お客様に一番重要な業務とシナリオを3つくらい選んでいただいて、どう実現できるかベンダにデモを依頼します。そうすると、ベンダの力の差がはっきり出てきますね。

(石川氏)契約形態もポイントではないかと思います。日本企業は請負契約を望むところが多いですが、ERPはシステムを稼働させながら調整を行っていくので、柔軟性がある準委任契約の方が向いていると思います。導入期間が延びるとコストが膨らみますが、さまざまな要件を決められるしっかりとしたプロジェクト体制ができていれば、準委任契約の方が期間も費用も削減することができます。

インフォアジャパン株式会社 コンサルティング サービス本部 プロジェクトマネージメント 部長 石川 光幸氏

(浅利氏)確かにそうですが、人的リソースが不足している会社などは、委任や準委任で契約しても意識が請負のままになってしまい、せっかくの契約が逆に悪い結果を生んでしまうこともあります。パッケージベンダやSIベンダは圧倒的な経験がありますから、ユーザ企業がそれと対等になるには、スキルアップが必要です。ですから、ベンダ選定で重要なポイントは、対等な関係でプロジェクトを進めていくためのサポートがしっかりしているかどうかだと思います。

目的の再確認と知識習得を意識したスケジュール管理

(谷口)プロジェクトの中盤になると事業部門から追加要求などが挙がってくることもよくありますが、そういった場合には、やりたいことを盛り込みすぎず、本当に必要な部分は何なのか、そこを改めて明確にし取捨選択することが重要です。

また、お客様側で自社業務が忙しく、時間が取れないまま知識移転が遅れていくというケースがあります。ベンダはスケジュール通りに進めたいので代わりに作業を進めますが、そうすることで実は知識移転という重要なタスクがスケジュールより遅れてしまうことになります。さらにベンダがお客様作業の支援に回るので、本来プロジェクト中盤で行う運用設計や保守の準備など、スケジュールが遅れる原因にもなります。

対談の様子

(浅利氏)プロジェクトのスケジュールに余裕を持ちすぎて、知識移転に時間が取れないケースもありますね。だから、あえてプロジェクト期間を短く、本来1年かかるものを9ヶ月にするというやり方が適する場合もあります。そうした分かりやすい制限をかけることで、抱えている課題も乗り越えやすくなります。また企業側が予算、課題認識をベンダとどれだけ共有できているかも重要です。かつて、社外秘該当内容までベンダ側のプロジェクトマネージャと共有し、プロジェクトへの注力度合いを示したことで、大変困難なプロジェクトを成功させたこともありました。

積極的なバージョンアップと評価・改善の実践

(石川氏)プロジェクト終盤になると、導入後のサポートも考えるべきポイントだと思います。サポート費は開発費の20~25%が一般的ですが、企業側の知識の習得度合いで費用が変わるので、稼働時に見直すことになります。導入段階で知識の習得に力を入れている企業は、劇的に下がって2~3%になるので、他拠点展開など次のステップへ費用を回すことができます。またパッケージベンダの立場で言うと、サポート費は基本的にはR&Dに回し機能アップに使ったりしますので、導入企業側でもバージョンアップには積極的に取り組むべきだと思います。

(谷口)ERPは導入して終わりではなく改善し続けることが大事ですので、バージョンアップは重要ですね。そのためには、最初に立てた目標が経営者目線でどの程度達成できたか、導入後の稼働状況をきちんと評価することがポイントだと思います。100点満点の評価はなかなか難しいので、そこに存在するリスクを包み隠さずに明らかにすることが大切で、評価をしてやり残しがある場合は、しっかりとToDoを明確にし、導入後も改善していくことが重要だと思います。

(浅利氏)そうですね、ERPは導入までの道筋も大切ですが、導入して2、3年で止めるものではありません。導入してからが始まりで、そこからいかに評価・改善しながら経営に役立つシステムへと運用していくかが重要だと思います。

ERPの導入は単純なパッケージの導入ではない。

ここでは、プロジェクトの立ち上げから導入後の運用にかけて重要となるポイントとして、導入企業が主体的に参画し、目的やゴールを明確にした上で取り組むことや、導入後も評価・改善を継続していくことの重要性について紹介した。
ERPを真に活用するためには、導入後もパッケージをテコに経営や現場の業務をモニタリングし、改善につなげるための継続的な取り組みが必要である。

取材時期:2015年8月

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