AI画像解析による蔵書点検で、図書館の業務負荷を軽減する

図書館では、数万冊におよぶ蔵書の点検作業を定期的に実施する必要があり、その大きな作業負荷が運営上の負担となっています。RFID(Radio Frequency Identification)活用による効率化も進んでいますが、全ての蔵書にICタグを貼り付ける工数が膨大なことや、専用機器の導入費用が高額なことから、導入に踏み切れない図書館も少なくありません。
そこで、京セラコミュニケーションシステム(以下、KCCS)は、画像解析AIを活用したAI蔵書管理サポートサービス「SHELF EYE(シェルフ アイ)」を開発しました。KCCSは同システムのAI画像解析技術を応用した利用者向けのセルフ貸出システムなど、さまざまなソリューション提供を通じて図書館におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進していきます。

プロジェクトメンバー

  • ライフイノベーション事業部 西 晃史郎

EPISODE.1 職員の業務負荷軽減に向け、AI画像解析で蔵書点検を効率化したい

図書館において、蔵書・資料の有無や配架位置などを確認する蔵書点検は、運営上欠かせない業務の1つです。しかし、ほとんどの図書館では数万冊、規模によっては数十万冊にも及ぶ蔵書のバーコードを1冊ずつ手作業で読み取るため、一定期間の休館日を設けて、多くの人員をかけて対応しています。職員の負荷は非常に大きく、図書館運営における長年の課題となっています。

蔵書点検の作業負荷を軽減するため、ICタグと専用機器を導入する図書館も増えています。しかし、導入には多額の費用がかかること、1冊ずつICタグを貼り付ける作業負荷が新たに発生することなどが導入のネックとなる図書館もあるようです。こうした状況の改善に貢献できるサービスとして、KCCSが開発したのがAI蔵書管理サポートサービス「SHELF EYE」です。

SHELF EYEはタブレット端末のカメラ機能で書架を撮影し、書架画像から本の背表紙を1冊ずつ分割して認識するAIと、分割した背表紙から本を特定するAIを組み合わせて、蔵書を特定します。蔵書点検時は、タブレット端末で書架画像を撮影するだけで、本を1冊ずつ手に取り確認することなくまとめて確認することができ、蔵書点検における本の読み取り作業を効率化します。

EPISODE.2 画像解析精度の向上のため、図書館で繰り返し実証実験に取り組む

KCCSは顔認証技術を保有しており、そこから「顔の画像で人物を特定できるのだから、背表紙の写真で本を認識・特定できるのではないか」というアイデアにつながり、2019年11月にSHELF EYEの開発を開始しました。まずプロトタイプを作成し、公共図書館システム「ELCIELO(エルシエロ)」のお客様である船橋市図書館様に実証実験のご協力をいただき、実際の書架を使わせていただきながら精度検証を進めました。

検証を進める中で、「本以外の四角い物体を検知してしまう」「背表紙の厚さや高さが異なると解析精度が落ちる」などの問題を抽出し、それを解決したのち再び実証実験をする、というプロセスを繰り返しました。ときに、図書館への思いがあふれ、アイデアが散らかり、ゴールが曖昧になることもありましたが、意見を集約して資料化することで話をまとめるなど工夫を凝らしました。そして2021年2月、ついにSHELF EYEのリリースすることができました。

リリース後、いち早く製品を導入いただいたのが、鹿児島市立天文館図書館様でした。商業施設内にある天文館図書館様は、基本的に休館日がなく、他館と比べて非常に短時間で蔵書を点検する必要があり、SHELF EYEを選定いただきました。導入に向けて、天文館図書館様の環境に合わせた調整のほか、画像認識の技術を応用したセルフ貸出機も開発しました。特に貸出は直接利用者に関わるサービスのため、本の検知・解析ミスは許されません。天文館図書館様の環境で、より正確に本を特定できるよう、AI画像解析の判定基準などを厳しく調整しました。2022年4月の図書館オープンに合わせて、本稼働させることができました。

EPISODE.3 『先端技術・アイデア・実現力』KCCSの強みを活かした製品開発を続ける

このSHELF EYEは、一般社団法人日本クラウド産業協会が開催する、優秀かつ社会に有益なIoT・AI・クラウドサービスを表彰する「ASPIC IoT・AI・ クラウドアワード2022」のAI部門で準グランプリを受賞しました。図書館で勤務した経験のある西は、自身の経験を活かしてSHELF EYEの開発に取り組んできたため、この受賞に喜びもひとしおの様子です。
「『現場の職員にとって、本当に使いやすく便利なシステムになっているか』 を常に意識して、システムやオペレーションの望ましいあり方を考えてきました。その結果として、蔵書点検という積年の課題に対してソリューションを提供できたことは、非常に良かったと思っています」。

SHELF EYEは図書館以外にも、書店や出版社、メーカーなど書籍の管理に同様の悩みを持つ企業から予想以上の反響が寄せられています。今後はこうした業界との連携も検討しています。

KCCSではさらにロボット技術とSHELF EYEをかけ合わせて書架の撮影を自動化することで、蔵書点検の手間をいっそう削減できるのではないかと考えています。他にもSHELF EYEとAR技術を組み合わせることで、来館者が探している本が並ぶ書架までのルート案内や、本来あるべき場所に見当たらない蔵書の捜索を効率的に行うサービスも検討開発しています。先端技術の豊富な知見を持つKCCSは、これからもアイデアと実現力で公共図書館のDX推進を支援し、図書館のより良い未来を創り続けていきます。

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