図書館休館の理由は蔵書点検?来館者数の増減にも影響する重要タスク

2023.09.04

図書館職員にとっての日々の基本業務である「蔵書管理」。館内にある資料が貸出中か、正しい棚の位置に整理されているか、行方不明の資料はないかを常に管理・運用する業務です。蔵書管理には多くの業務がありますが、中でも定期的な棚卸である「蔵書点検」が重要タスクと言えます。

蔵書点検を実施する際は、図書館を休館にして来館者向けサービスをストップさせる必要があります。また、地方公共団体によっては委託やボランティアに依頼するケースもあるほどです。特に新任の方の場合は、蔵書点検の重要性や細かいタスク内容の理解が必要になります。業務効率化をご検討中の図書館職員の方を対象に、蔵書点検の基本や課題に加え、システム別(バーコード、RFID、画像解析AI)の「初期投資」「維持費」「労力」の比較を紹介します。

蔵書管理における一大イベント「蔵書点検」

蔵書点検の知識がなければ、資料の所在確認のために図書館を休館させる状況を想像しにくいかもしれません。現場職員の方にとって、蔵書点検はなぜ一大イベントなのでしょうか。

資料という大切な資産の管理業務が蔵書点検

図書館を休館させてすべての資料の所在を確認する蔵書点検は、年に1回ほどの頻度で来館者が比較的に少ない時期に行うのが基本です。図書館の規模や所蔵する資料の数によって異なりますが、3日~1週間ほどは来館者サービスを停止する必要があります。

公共図書館が所蔵するすべての資料は、各行政の資産です。各図書館では所蔵数を公開しており、実際に確認できる数と異なる事態は避けなければいけません。資料の行方不明や紛失は、来館者が望む資料を借りられないだけでなく、「資産の喪失」になります。大切な資産である資料をしっかり管理するうえでも蔵書点検による棚卸が重要です。

一点一点の所在を確認する棚卸の業務

蔵書点検では担当職員がすべての書架を見て回り、数千点~数十万点以上の資料、すべての所在を一点一点入念に確認します。返却処理が漏れていたり、そもそもの所在が分からなかったりする資料が出てくるので、その対応の協議が必要です。

所在不明の場合は、来館者のために新規で購入するのも選択肢の1つになります。一方、新規で購入せずに破棄として処理する場合もあります。ただし、資料は行政が保有する資産のため、資産外にする稟議や決裁などの手続きが都度必要です。一点一点の所在確認だけでなく、行方不明の資料の処遇を判断して対応する必要があるため、職員にはかなり負荷がかかります。

理解が得られにくい蔵書点検による休館

蔵書点検は比較的に来館者が少ない時期での実施が大半ですが、足を運ぼうとした来館者を休館によってがっかりさせてしまうこともあるでしょう。「なんで図書館が休館なの?」「もっと開館してほしい」という声も実際に多く寄せられるだけに、職員としても心が痛むはずです。近年は年中無休のサービスもある世の中だけに、開館日を増やす意味でも蔵書点検の最適化が求められます。

図書館の蔵書点検における現状と課題

図書館の現場職員の視点で蔵書点検を捉えると、さまざまな課題が浮き上がります。担当職員の方にとっての蔵書点検における主な懸念は何でしょうか。

蔵書管理の人手増員のため委託やボランティアを活用

蔵書点検を行ううえで、地方公共団体の図書館職員の数は十分とは言い切れないのが現状です。そのため、人手増員のために民間のサービスに委託したり、ボランティアを募集したりするケースも珍しくありません。

また、委託やボランティアの活用で蔵書点検の人手を確保できたとしても、業者選定や見積もり対応などのマネジメントは現場職員が担当します。作業に慣れていないメンバーにも指示を出すなど多岐にわたる業務が発生します。

休館が長引くと来館者数の減少にも影響

文部科学省が発表した「社会教育調査令和3年度(※)」によると、図書館の1施設当たりの来館者数は平成29年度で54,060人。平成29年から令和1年まではほぼ横ばい、令和2年はコロナ禍の影響もあり、来館者数は減少しています。

そうした状況下で、蔵書点検による図書館休館日が多くなると、来館者数はより少なくなる恐れもあるでしょう。蔵書点検の最適化に加え、各地方公共団体でも休館日を減らす工夫が必要です。
以前までは月曜休館が多かった図書館ですが、近年では休館日をずらして他の同地域の図書館を利用できる取り組みをしている地方公共団体も増えています。

文部科学省「令和3年度社会教育統計の公表について」(別窓で開く)

図書館運営は業務効率化と利便性向上が急務

蔵書点検の業務効率化は急務であり、DX時代において来館者の利便性向上は図書館運営における大きな課題です。先端テクノロジーの導入を検討する時期が訪れています。

多くの図書館では資料にバーコードを貼り付けて、リーダーで読み込んで所在を管理しています。近年では、RFID(Radio Frequency Identification)での管理(情報が書き込まれたICタグに電波でワイヤレス通信することで、情報の読み取りや書き換えをするシステム)や画像解析AI(資料の背表紙画像をAIで解析する仕組み)を導入する図書館が増えています。図書館運営においても業務効率化と利便性向上に向けた過渡期にあるのです。

蔵書点検のシステム別「初期投資」「維持費」「労力」の比較

図書館運営の方法は主にバーコード、RFID、画像解析AIの3つがあります。システムごとに「初期投資」「維持費」「労力」を比較しました。

【蔵書点検のシステム比較】 蔵書点検のシステム比較

初期投資に関しては従来のバーコードがもっとも経済的

図書館の資料の管理でお馴染みのバーコードは、大きな設備投資が不要なのが最大のメリットです。一方、近年で導入が進むRFIDは、初期で高額な設備投資がかかります。また、画像解析AIはRFIDより導入コストを抑えられますが、初期の背表紙と資料番号を紐づける作業が発生します。

維持費に関してはバーコードと画像解析AIが高評価

RFIDはタグの特性による読み取り不具合や経年劣化でICデータが消去される事案など、メンテナンスやランニングコストがかかる傾向にあるシステムです。一方でバーコードと画像解析AIは一度導入してしまえば、維持費は少なく抑えられます。

労力・手間の面ではRFIDと画像解析AIが効率的

バーコードのような一点一点の点検方法ではなく、より効率的に行えるのがRFIDと画像解析AIです。RFIDは棚にリーダーをかざしてICタグ情報を読み取ることで蔵書の管理・点検が行え、画像解析AIは複数の背表紙画像を背表紙ごとに1点ずつ資料を特定できます。

まとめ

図書館運営負担の軽減と来館者増のために蔵書点検の最適化を

一般の方の図書館利用率をより高めるためには、開館日を増やしてサービス利用できる状況を整える意味でも蔵書点検の最適化は急務です。時代の変化に合わせて図書館運営においてもDX導入を検討するタイミングに来ているでしょう。しかし、一方でさまざまな業務効率化を促進するサービスやシステムがあるだけに、図書館ごとの最適解は異なります。そのため、まずは導入コストを抑えたDXの取り組みからスタートすることも有効かもしれません。

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