静岡県榛原郡川根本町無線ブロードバンド

川根本町が光ファイバと無線により町内全域を高速ブロードバンド化 ICTの利活用で「まち・ひと・しごと創生総合戦略」を推進

(左から)KCCS 社会システム営業本部 社会システム営業統括部 事業部長 川村 宏樹 / 静岡県川根本町 鈴木 敏夫町長 / 静岡県川根本町 情報政策課 課長 山田 貴之氏 / KCCS 社会システム営業本部 社会システム営業統括部 社会インフラ営業部 副部長 村上 彰利

静岡県榛原郡川根本町では「高度情報基盤整備事業」を進め、2015年12月に工事が完了。高速ブロードバンド環境の整備に加え、各世帯にIP電話や行政・防災情報の配信が可能な告知端末「かわねフォン」を設置し、ICT利活用を推進している。インフラ構築は京セラコミュニケーションシステム(KCCS)が担当。光ファイバと無線により、高速ブロードバンド環境と防災情報ネットワークを同時に整備し、コストを抑えたインフラ構築が評価された。現在では、かわねフォン同士で利用できるIP電話の無料通話は1日に約1,000件を超え、構築された高速ブロードバンド環境は住民のコミュニケーション活性化に大きく貢献している。川根本町の鈴木 敏夫町長と情報政策課 課長の山田 貴之氏に取り組みを聞いた。

1.誇りと自信の持てる町づくりに向け情報基盤を整備

川根本町は大井川の上流に沿って東西約23km、南北約40kmの細長い形で広がり、南アルプスの麓に湧く寸又峡温泉や接岨峡温泉、昔懐かしいSLが走る大井川鐵道、名茶「川根茶」などで知られる。町域の約90%を森林が占め、2014年6月に川根本町全域を含む南アルプスエリアがユネスコエコパークに登録されたほか、2015年10月にはNPO法人「日本で最も美しい村」連合に加盟している。

川根本町の風景

「川根本町は2005年に本川根町と中川根町が合併して誕生、昨年10周年を迎えました。住民の絆を深め、誇りと自信の持てる町づくりを進めています。人口の減少と高齢化が進む中、Uターン就職の促進や、医療・教育・防災などさまざまな施策を検討していますが、いずれにしても情報基盤の整備なしには始まらないと考えていたのです」と川根本町の鈴木 敏夫町長は話す。

総務省の調べによると2013年時点で、超高速ブロードバンドの未普及率は全国で0.6%とされており、中山間地域という地理的な条件から川根本町はこれに該当していた。

川根本町 鈴木町長

「川根本町の本庁舎はADSLを利用していましたが、通信速度は数Mbps程度でした。広報紙の印刷データを印刷会社に送信するにしても数時間かかっていました」と川根本町 情報政策課 課長の山田 貴之氏は打ち明ける。また、町の重要な観光資源である寸又峡温泉や接岨峡温泉では通信回線は64kbpsのISDNしか利用できず、「宿泊予約は主に電話で行っており、インターネット予約が一般化する中で大きな機会損失になっていました」と鈴木町長は話す。

川根本町 山田氏

2.高速ブロードバンドと防災情報ネットワークを同時に整備

川根本町では、構築・運用コストを抑え町内全域に高速ブロードバンド環境を整備すること、更新を迎える防災無線に代わる新たなネットワークを導入することなどを要件に事業者を募集。KCCSは光ファイバと無線を組み合わせたハイブリッド型の基幹ネットワークの構築を行った。

ハイブリッド型の基幹ネットワークについて、KCCS 社会システム営業本部 社会システム営業統括部 社会インフラ営業部 副部長の村上 彰利は「大井川を挟んで山間部にも町域が広がっています。町内全域を光ファイバで結ぶとなるとケーブルの敷設にコストがかかり、山間部では台風などによる倒木でケーブルが断線するといった事態も想定されるため、光ファイバと無線の組み合わせは有効だと思います」と話す。この無線ネットワークは、老朽化していた防災無線の代替となることからインフラ構築コストの削減につながった。

KCCS 村上

また川根本町では情報基盤の整備に合わせ、各家庭に設置していた同報無線受信機に代わる受話器付きタッチパネル型の告知端末「かわねフォン」を導入。「『かわねフォン』は、災害発生時などの緊急通報のみならず、通常時にも行政情報の伝達などで利用することができます。"普段使い"としては住民のコミュニケーションの活性化に、"イザ"というときは災害対策インフラとして活用することを計画しました」と山田課長は話す。

そして2015年12月、総延長距離約120kmの光ファイバと101カ所の無線基地局、町内のほぼ全世帯(2,740世帯)に配布されたIP告知システム「かわねフォン」で構成される川根本町の情報基盤が完成した。

KCCSでは地域に密着した迅速な対応と高品質な運用サービスの提供に向け、東海ブロードバンドサービス株式会社(TBBS)を設立。TBBSではインターネット接続サービスの提供や、町の委託により「かわねフォン」の運営を担当している。

概念図

3.IP電話や緊急放送を備えた「かわねフォン」の利活用を推進

高速ブロードバンド環境により、数時間かかっていた広報紙のデータ送信が数分で済むようになった。山間部の寸又峡温泉や接岨峡温泉の基幹ネットワークは無線を利用しているが光ファイバと遜色のない通信速度を確保し、全町域で高速なインターネット接続が可能となっている。「地域住民をメンバーとするICT利活用検討委員会を設け、情報基盤の利活用に向けてアイデアを出し合っています。新たにオープンした川根本町若者交流センターでICTの講習会を企画したり、本庁舎と総合支所を結ぶテレビ会議の試験を開始したりするなど、さまざまな取り組みが始まっています」と鈴木町長。川根本町には4つの小学校と2つの中学校のほか県立高校が1校あるが、インターネットを使った学習や遠隔診療など教育・医療面でも期待されている。

高速ブロードバンド環境の整備とともに「かわねフォン」の利活用も進んでいる。行政情報や地域行事などの案内を文字や画像で配信する「お知らせ機能」や、災害時の緊急連絡をする「告知放送」のほか「動画視聴機能」がある。町の広報紙の取材時に動画を撮影し、孫の通う保育園や小学校の行事を動画で紹介するなど、お年寄りにもかわねフォンを親しんでもらえる工夫がされている。また山田課長は「町内のかわねフォン同士は無料でIP電話とテレビ電話を利用できますが、1日に約1,000件の通話があり住民のコミュニケーション活性化に効果を発揮しています」と手ごたえを実感する。

かわねフォン

KCCS 社会システム営業本部 社会システム営業統括部 事業部長の川村 宏樹は「今後、情報基盤を利用したお年寄りの見守りサービスなども可能になります。KCCSのエンジニアリング技術とICT技術を活かし、町の活性化に役立つサービスを提案していきます」と述べる。

情報基盤の整備に合わせ、駅や観光スポットで無料のインターネット接続を提供し、ソーラー発電と蓄電池の組み合わせにより災害時の通信手段となる「観光・防災Wi-Fiステーション」、観光客に情報を提供する「観光ポータル」の整備も進められている。

川根本町では、鈴木町長が中心となって地域の歴史や文化などを学びながら、住民が町づくりに参画する「千年の学校」の活動を続けている。こうした地域の目指す姿や取り組みと足並みをあわせ、自治体の持続的な人づくりや魅力づくり、活力づくりに貢献すべく、KCCSはICTの利活用を提案していく。

KCCS 川村・観光防災Wi-Fiステーション

取材時期:2016年3月
掲載日:2016年4月21日

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