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イオングループ安否確認システム

イオングループがBCP対策を強化、国内最大級40万人に対応可能な「安否確認システム」を再構築

イオングループがBCP対策を強化、国内最大級40万人に対応可能な「安否確認システム」を再構築

イオングループでは、従来からBCP対策として、大規模な自然災害が発生した場合の対応について規定や手順書を定め、的確に対応できるよう教育訓練に取り組んできた。そして現在、2011年3月11日の東日本大震災を教訓として、さらにその取り組みを強化している。その一環として、イオングループのITサービス機能を担うイオンアイビス株式会社(以下、イオンアイビス)は、京セラコミュニケーションシステムの支援を受けて、「安否確認システム」を再構築した。グループ31万人が利用する「安否確認システム」を再構築した経緯と今後の展望などについて聞いた。

1.グループを挙げて、BCP対策の強化に取り組む

東日本大震災以降、多くの企業がBCP(事業継続計画)に本格的に取り組んでいる。GMS(総合スーパー)からディスカウントストア、ドラッグストア、専門店、Eコマースまで幅広い小売店を擁するイオングループでも、従来からBCP対策に取り組んでいる。
「イオングループでは、大規模な自然災害が発生した場合の対応について規定や手順書を定め、大規模地震が発生した場合には、各店舗でお客様や従業員を迅速に避難誘導するとともに、対策本部を設置して、従業員の安否確認や各社・各店舗の状況確認に努めています」と説明するのは、イオングループ全体のBCP対策を担当する、イオン株式会社 グループ総務部 リスクマネジメント担当 飯田 篤司氏だ。そして、2004年の新潟中越地震の際、従業員の安否確認を人手で行わなければならず時間がかかったことから、イオンリテールの従業員約10万人を対象とした安否確認システムを構築したという。

イオン株式会社 グループ総務部 リスクマネジメント担当 飯田 篤司氏

「東日本大震災が起きた直後に東日本地域に安否確認メールを発報しました。しかし、運用が徹底されておらず登録人数も少なかったため、東日本エリアの従業員すべてに届きませんでした。また通信回線に障害が起きて、メールの配信が非常に遅れてしまいました」と振り返るのは、当時運用を担当していたイオンアイビス株式会社 システム開発本部 インフラ・ユーザーサポート部 インフラグループ イントラチーム 石井 和人氏だ。

イオンアイビス株式会社 システム開発本部 インフラ・ユーザーサポート部 インフラグループ イントラチーム 石井 和人氏

2.40万人に対応可能な安否確認システム再構築ベンダにKCCSを選ぶ

東日本大震災の甚大な被害を目の当たりにして、持ち株会社であるイオンにはイオンリテール以外のグループ各社からも安否確認システムに対する問い合わせや加入の申し込みが相次いだ。「そこで、パート・アルバイトも含めて国内31万人の従業員すべてを取り込む形で、安否確認システムを再構築しようと決めました」と語るのはイオングループの人事を担当する、イオン株式会社 グループ人事部 人事企画グループ マネージャー 山田 高豊氏だ。

新システムの構築にあたってイオンアイビスは、第1フェーズで40万人、第2フェーズで100万人を格納できるデータベース、30万人の登録者に対して3時間以内でメールを送ることができる配信速度、安否確認を行うWeb画面の3秒以内での表示という3つの性能要件をまとめた。要件をまとめる過程で行った調査では、国内には40万人に対応可能な安否確認システムは存在せず、パッケージもそこまでの規模を想定していないことが分かった。そのため、構築が非常に難しいシステムになると想定しながら、10社ほどのベンダに提案を求めた。その中で比較検討した結果、最終的に選ばれたのはKCCSだった。

イオン株式会社 グループ人事部 人事企画グループ マネージャー 山田 高豊氏

KCCSを選んだ決め手は、旧システムのアプリケーションを活用し短期間での移行が可能なこと、データセンターを東京と1,600km離れた沖縄に置いて二重化するとともに、運用も東京と京都で二重化し、不測の事態にも備えた堅牢な基盤であったことだった。「新しいアプリケーションだと、従業員への教育が必要になりますし、地域や正社員・パートなどで細かなグループ設定が行われているデータベースを作り直さなければなりません。それには時間が必要で、旧システムの契約終了まで1ヶ月半ほどしかない中でとても間に合いません。それに対して、今までのアプリケーションであれば教育も要らず、データ移行だけで済むので最良の提案だと考えました」と語るのはイオンアイビス株式会社 システム開発本部 インフラ・ユーザーサポート部 部長 港 和行氏だ。

イオンアイビス株式会社 システム開発本部 インフラ・ユーザーサポート部 部長 港 和行氏

3.不測の事態でも止まらない"オンラインの避難所"を目指す

決定を受けて、システム構築が始まったのが7月上旬、8月20日にはシステムを切り替える必要があったため、KCCSは急ピッチで作業を進めた。「最初に提案依頼書を見た時には、『どこまでできるだろうか』と正直不安になりました。しかし私自身、東日本大震災の時にお店が開いていて、商品があることのありがたさが身に沁みていたので、不測の事態でも止まらない、"オンラインの避難所"になるサービスにしなければならないと考えました。そのために、将来的にはクラウドを利用して、日本のサーバが運用できなくなった時でもソフトウエアで自動的にアメリカのサーバに切り替えるようにすることも見据えてシステムを設計しました」と振り返るのは安否確認システム導入のプロジェクト全体を見るKCCS インターネットビジネス事業部 サービスデリバリ部 部長 大竹 哲史だ。

KCCSインターネットビジネス事業部 サービスデリバリ部 部長 大竹 哲史

構築過程で一番苦労したのは、今まで使っていたパッケージを検証・チューニングし、新システムで使えるようにすることだった。「パッケージベンダからは規模が大き過ぎるので稼働を保証できないと言われていましたが、3,000万人規模のユーザを持つ通信キャリアのシステムを開発・運用しているノウハウを活かして、パッケージが使えるように工夫しました。お盆休みも返上して構築作業を進めた結果、8月20日に間に合わせる形で、システムを稼働させることができました」と語るのは、構築を担当したKCCS 東日本データセンター事業部 東京第2運用課 課長 為川 敦子だ。

KCCS 東日本データセンター事業部 東京第2運用課 課長 為川 敦子

4.定期的に訓練を繰り返すことで、システムと運用の精度を上げる

新しい安否確認システムの登録ID数は2013年1月段階で約30万人、東京と沖縄の2つのデータセンターにサーバを置くとともに、東京と京都に二重化した統合運用サービスで、広域災害発生時でも有人によるきめ細かい運用サービスの提供が可能になっている。

安否確認システムの概要

「2012年10月の訓練で要件どおりの性能が確認された後、12月7日に東北地方に津波警報が出された時に県単位で発報しました。登録者にはメールがスムーズに届いているので、システムとしては当初計画したとおりのものになっていると評価しています。今後は発報訓練を年2回ほど行い、メールの届き具合を確認しながら、返信できない場合の理由を探って返信率を上げていきたいと思います。そうした訓練を繰り返すことで、システムの精度も上がりますし、登録率を100%に近づけていくことができると考えています」と飯田氏は説明する。さらにKCCSサービスデスクでは、定期的に人事情報と連動し、ユーザ情報のメンテナンスを図っている。

イオンアイビスの港氏は、「KCCSには、安否確認システムというBCPの重要部分において、堅牢な基盤の構築と安定運用を提供してもらっています。今後もBCP対策はKCCSに任せていきたい」と期待を寄せる。

イオングループのBCP対策の一翼を担うKCCSは、今後もICTパートナーとして全力で期待に応えていく考えだ。

取材時期:2013年1月
掲載日:2013年5月16日

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